粟国島で生きてきたおばあちゃんと観た三日月

粟国島で生きてきたおばあちゃんと観た三日月

粟国島で、左側がざっくりと欠けている月を、宿の女将さんと並んで眺めていたときのことを、よく覚えている。

以来、三日月を見るとそのときの記憶が鮮明によみがえる。

「暗いニュースばかり」

女将さんのごはんはおいしい

粟国島を訪れ、いつもの宿に泊まっていたときのこと。

この日の宿泊者はたまたま私だけで、女将さんと一緒に夕飯を食べた。

女将さんは80代後半にもかかわらず、基本的にひとりで宿を切り盛りしているのだが、毎回手作りのお料理でおもてなしをしてくれる。

おいしいなぁとじっくりゆっくり箸を進めていると、隣に座っていた女将さんが静かにこうい言った。

『人を殺すとか、暗いニュースばっかり。人間が一番怖いさ。命を何だと思ってる』

それはテレビから流れてきたニュースに対しての言葉で、女将さんは悲しそうな表情をしていた。

 おばあちゃんが目にしてきたこと

食堂

『ちょっと待って、今お茶入れるから。まだここにいればいいさ』

食事を終え、部屋に戻ろうとしていたら、女将さんに引き留められた。

さっきまでとても眠そうだったのに、ちゃきちゃきと台所に向かう女将さん。

しばらくすると、黙って座る私の前に温かいさんぴん茶が置かれ、女将さんは私の隣にふたたび腰を下ろしてぽつりぽつりと話を始めた。

内容は、旧暦から新暦に切り替わったときのことと、思い出したくもないであろう目の前が戦場と化したときのこと

急に突きつけられた、新しい暦への戸惑い。

穏やかな暮らしが奪われ、近くに迫る兵隊さんや空や海から降り注ぐ鉄の雨の恐ろしさ。

これまで大事にしてきたものが、あっという間に、そして次々と無くなってゆく悲しみ。

静かに、たまに感情的に女将さんは話を続けた。

気づいたら、私は泣いていた。

今ある幸せをかみしめる

三日月

『今日はこれで終わり。あ、今日は月がキレイかもねぇ。ついてきなさい』

涙とともに鼻水まで出てきた私を見てか、女将さんはそう言って勝手口から外へ出た。

私はあとを追い、女将さんの視線の先に目を向けると、そこには左側がざっくり欠けている月が浮かんでいた

こうしてぼんやりと月を眺めていられる、それはあたりまえじゃなくてとても幸せなことなんだと思ったら、こらえていた涙がふたたび込み上げてきた。

月はだんだん滲んで見えてきて、このことは忘れまいと深呼吸をした。

『あんたはよく泣くねぇ。明日、ソーミンチャンプルーつくろうねぇ』

ソーミンチャンプルーが大好きなんだと私は前に話したことがある。

大好物の話をすれば私が元気になるだろうと思ったのか、女将さんは隣でそう言って笑っていた。

翌日いただいたソーミンチャンプルーは、とてもとてもおいしかった。

今ある幸せも一緒にかみしめる。