おばぁちゃんが見てきた粟国島

おばぁちゃんが見てきた粟国島

おばぁちゃんが見てきたもの

やさしい色の海

「あんたはなーんも知らんでしょ。この島にも兵隊さんが来たわけよ。」

粟国島で出逢ったおばぁちゃんはこう言って、静かに昔の話を始めた。

おばぁちゃんが話してくれなかったら、知らずに過ごしていた、少し前の島のこと。

大好きなおばぁちゃん

宿のお部屋

粟国島は沖縄本島の西に浮かぶちいさな島だ。

この島に、大好きなおばぁちゃんがいる。

血がつながっている本当のおばぁちゃんではなく、ある宿のおかみさん。

80代後半にもかかわらず宿をきりもりする姿は、ただただスゴイとしか言えない。

アハハハハ~とよく笑ったり、たまに冗談を言ったりするおちゃめな一面もあり、そんなおばぁちゃん会いたくて、来島時は毎回お世話になっている。

「あんたはなーんも知らんでしょ?」

長い月日を経て

おばぁちゃんと初めて出逢ったときのこと。

『ねーねー(お姉さん)、いくつ?』

「25歳です。」

『この島に来たことある?』

「いえ、今日が初めてです。」

『ふーん…あんたはなーんも知らんでしょ。この島にも兵隊さんが来たわけよ。』

さっきまで沖縄料理の話をして笑っていたおばぁちゃんの顔が、突然真剣な表情へと変わった。

そして、ご自身が70年前に経験したことを話してくれた。

70年前のお話

木は語らない

『あんときは終了式でね~、みんな体育館にいたわけよ。そしたら突然さ。』

『裸足で逃げて、隠れた。』

『すぐそばを兵隊さんが歩いてったときは、息もできなかったさ。』

1945年3月23日、米軍は沖縄に空からの攻撃を始めた。

この島も戦場と化した。

あのうつくしい海から爆弾が撃ち込まれたなんて。

静かで穏やかなこの島を裸足で逃げ回ることになったなんて。

おばぁちゃんの言う通り、わたしはなにも知らなかった。

話してくれたおばぁちゃんの気持ち

太陽の元を歩く喜び

それをずっと背負って生きてきたおばぁちゃんの気持ちは、わたしなんかが分かるものではない。

でもポロポロ涙を流してしまったわたしの手を、おばぁちゃんはふんわり握ってくれた。

『あんた、きっとこの島に縁があるさー。だから話した。』

どうしてですか?とわたしは聞いたが、おばぁちゃんは『なんでかねー』とだけ口にし、冗談を言っているときの顔に戻っていた。

わたしはそれから45年後の3月23日に生まれている。

やっぱりなにか関係があるのだろうか?いや、勝手な想像はやめよう。

わたしたちが語れるものではないけれど、つないでいく方法を探さなければ。

まずは知ることから始めよう。